こちら「日本語でケアナビ」開発室

2008年3月のシンポジウムの詳細が決定!

ケアの仕事でのコミュニケーションについてかかれた書物を読み、「日本語教師の私たちにも、ケアの仕事に就こうとする日本語学習者に対してできる仕事がある」、という気持ちになったことについて、「理論というナビゲータ:出会いの本」で、すでにお話しました。

目標言語調査

このデータベースを作るとき、初めにやらなければならないと思いながら、結局は行わなかったことがあります。それは「目標言語調査」です。この調査は、言語が使われている現場に滞在して言語データを収集し、分析する方法です。このプロジェクトの場合、看護や介護の現場で調査することになります。

「目標言語調査」は、言語教育のコース・デザインを行う場面で、学習者の「ニーズ調査」や「レディネス調査」とともに、行うべきものとされています。つまり、学習者がある言語を学ぶときに、それが実際の場面でどのように使われているか、そこではどのような語彙や文型が用いられ、どのような会話が行われているかということなどを、生の言語データから分析する方法です。

目標言語調査の必要性とその方法については、以下の資料でいずれも「コース・デザイン」を行う際に必要なこととして位置づけられています。

『新版日本語教育事典』日本語教育学会(2005)p.751-753、大修館書店

『日本語教育機関におけるコース・デザイン』日本語教育学会編(1991)p.10-13、凡人社

小林ミナ(1998)『日本語教師・分野別マスターシリーズ よくわかる教授法』株式会社アルク

現実とは「複雑」である

私たちが「目標言語調査」を行わなかった理由は、ひとえに現実の複雑さにあります。このプロジェクトの目的は、看護や介護という特定の専門職に就いて日本の職場で働こうとする人々の日本語教育支援です。現場でどのようなことばが用いられているかという調査はもちろん有効であり、重要なのですが、対象となる学習者が就労する現場は、きわめて多様で、それらすべてを調査すること、あるいはそこから一つを選ぶことは不可能だと思われました。

働く場所の多様性

看護師の場合、病院の診療科によって、また、担当する業務によって、専門用語は異なります。介護職については、今のところホームヘルパーは対象外としていて、特別用語老人ホーム、老人デイサービスセンターなどの社会福祉施設などで就労することを前提としていますが、それでも、それぞれの施設によって特色ある業務内容や用語があるようです。

これら仕事の現場では、複数の人々が関わる多様な業務が同時にいくつも進行しているのが常で、緊急性のある場面も多いことが考えられます。そこでどのように調査をするか、現実と向き合う必要があります。

「調査」が目指すもの

言語に興味がある者、研究に重点をおく者にとって、現場での調査は必然であるように考えがちですが、一つの現場で濃密な調査を行うためには、単なる見学や観察のレベルではなく、おそらくそこである一定の時間滞在し、ともにその現場の状況に身を置くような、いわばフィールドリサーチ的な関わり方が必要なのではないでしょうか。

このように時間をかけて、関係者の理解と配慮を得て行った調査の結果手にした言語データが、非常に貴重なものであることはいうまでもありません。しかし、ある程度汎用性のある、教育用の資料となるようなデータベースを作成するには、一つの場所だけに基づいた資料は十分とはいえない、というおそれがあります。というのは、私たちが対象とする外国人看護師や介護職従事者は、日本全国の異なるタイプの施設や病院で就労することが予想されるからです。

このプロジェクトでは、現実の言語運用の調査と分析だけでなく、そこから運用するための資料を提供していくことが目標です。それを踏まえて、データを集めることと、データベースを作ることと、そのどちらに重点を置くかを考えなければなりません。

そして、もう一つ、日本での就労を目指して日本語を学習する動きは、海外ですでに始まっており、彼らを支援するためのデータベースの一日も早い完成が待たれていました。そういった状況の中、目標言語調査を行ってデータをそろえていくには、絶対的な時間的が残っていないという現実に、私たちは立たされたのです。

2008.02.20 14:39 - うえだ

次は「できること、できないこと、すること(2)」

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