「沈めてあげる」・・・どういうコト?
文型を逐一チェックしたり、テキストに合わせて文法を初級にしてみたりと、
文法的なことを念頭に置きながらも、
それだけに縛られずに「使える」例文を作るようには努めていました。
例えば、
「沈める」ということばに、
「お尻が浮くので、両手で挟んで浴槽に沈めてあげましょう」
という例文がついています。
入浴介助の場面での、スタッフの台詞です。
日本語初級者にとって、この例文は文法的に難しく見えます。
(なぜ文法的に難しいのかについては、
上田さんが後日書いてくれますので、そちらをどうぞ。)
そうかと言って文法的に単純に「お尻を沈めましょう。」にしても、
誰が何のために言っている台詞なのかがわかりませんよね。
この例文は、文法だけでなく、
「沈めてあげましょう」という言い方に込められた
気持ちを理解するという点でも、とても難しいんです。
「沈めましょう」や「沈めてください」では伝わりにくい、
介護する側からされる側に対する思いやりなんかが感じられますよね。
とにかく使ってもらいたい!
結局、多少難しくても、ニュアンスを伝える必要や
現場で使えるかどうかを重視して、
初めに作った
「お尻が浮くので、両手で挟んで浴槽に沈めてあげましょう」
という例文のまま載せることにしたんです。
型にはめることに気をとられすぎて、
せっかく作った例文も使ってもらえないんじゃ悲しいですから。
余談になりますが、この方針は、ことばのレベル分けにも言えます。
簡単なことばから順に、★、★★、★★★をつけていったと言いましたが、
ただ単に「このことばは簡単だから星1個!」「これは難しいから3個!」
という分け方をしたのではありません。
多少難しくても、現場での必要度が高く、覚える優先度が「1番」なら、
容赦なく「★」をつけていました。
「レベル分け」と書きましたが、正確には違いますね。
「難易度+学習優先度」って感じですかねぇ。
文法的な話ばかりしてきましたが、
もちろん内容も使えるものを目指していました。
今まで医療現場も介護現場も経験したことのない
制作メンバーが、ああでもない、こうでもないと言いながら
現場で使われそうな台詞や会話を作例するのは大変でした。
特に、医療場面での例文は、まさに手探りでした。
医師と看護師の間の会話には、専門用語もよく使われると思います。
素人の私たちには、非日常的な会話でしょう。
とにかく文献やらメディアを参考にしたり、
患者として病院に行った経験と想像を頼りに
作例するしかありませんでした。
家族に感謝
逆に、介護の例文は、医療に比べると比較的スムーズにできました。
というのも、メンバーのほとんどが、家で家族の看病をしたり、
高齢者と一緒に生活をしていたため、自分の身近な話から
作例のヒントを得ることができたからなんです。
「うちのお父さんが・・・」「おばあちゃんはいつも・・・」という
他愛もない話から生まれた、生活感溢れる例文です。
こうして苦しみながらも完成させた
「シンプル!でも現場で使える!」例文ですが、
やっぱり現場を知っている人に検証してもらう必要はありました。
最終的に各分野の専門の方からアドバイスをいただいて、
さらに本物っぽい例文にすることができたと思います。
2007.10.19 12:48 - しもやん


